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2020年7月17日 (金)

菊と刀/ルース・ベネディクト

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 菊も刀も、同じ日本像の一部なのである。日本人は攻撃的でもあり、温和でもある。軍事を優先しつつ、同時に美も追求する。思い上がっていると同時に礼儀正しい。頑固でもあり、柔軟でもある。従順であると同時に、ぞんざいな扱いを受けると憤る。節操があると同時に二心もある。勇敢でもあり、小心でもある。保守的であると同時に、新しいやり方を歓迎する。他人の目をおそろしく気にする一方、他人に自分の過ちを知られていない場合でもやはり、やましい気持ちに駆られる。兵卒は徹底的に規律をたたき込まれているが、同時に反抗的でもある。

40年ぶりに読んでみた。

本書で有名になった概念として「欧米は罪の文化、日本は恥の文化」というものがある。

罪の文化とはキリスト教の原罪に基づく考え方からくる。

一方の日本人は、幼いころから「世間体」ということを意識して育ち、それによって恥の文化が形成された。

欧米と日本の間に見られた最大の違いは、疑いなく、日本の兵卒が捕虜になったあと連合軍に協力したということである。

捕虜になった日本人は、もう人に合わせる顔がない、日本人としての人生は終わりだとあきらめた。

戦争がどのような決着を見るにせよ、とにかく帰国しようと心に思い描く者は一握りにすぎなかった。

殺してくれと頼む日本兵もいた。

「しかし、アメリカの習慣でそれが許されないということであれば、模範的な捕虜になりましょう」と申し出る有様であった。

彼らの優等生ぶりは、模範的捕虜の域を超えていた。

筋金入りの軍事専門家であり、しかも長年にわたって極端な国家主義を信奉していたにもかかわらず、彼らは協力的な姿勢を示した。

弾薬庫の所在地を明らかにし、日本軍の配置を事細かく説明し、アメリカ人に代わって宣伝文を書き、爆撃機に同乗してパイロットを攻撃目標へと誘導した。

と、このように日本人の二面性を記している。

日本人の恥の文化はどこから来ているのか?

日本人なら、まともでない人間から恩を受けたまま放っておくわけにはいかない。

恩にともなう借りを返そうと躍起になる坊ちゃんの心理は病的だ。

そう思った瞬間にベネディクトは、恩の貸借関係が日本人の倫理規範の要となっていることに思い至る。

それを分かりやすくアメリカ人に提示することが、『菊と刀』の課題となった。

そこでベネディクトは、恩の貸借を金銭の貸借になぞらえて説明する。

恩を受けておきながらそれをそのままにする者は、借金を返済しないのと同じことである。

アメリカで借金の返済に向けて強制力が作用しているのと同様に、日本では恩返しを促す力が働いている。

その強制力とは「恥」である。

義理を果たさないと、恥を知らない人間として世間の嘲笑を買う。

だから、日本人は義理を尽くす。

『菊と刀』の核心的部分はそのように要約することができるだろう。

今から読み返してみると、ずいぶん間違った理解もあるように感じるのだが、日本人を知る上での重要な本であることに間違いはないであろう。

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