他人を支配したがる人たち/ジョージ・サイモン
人を追い詰め、その心を操り支配しようとする者──「マニピュレーター」は、聖書に書かれた「ヒツジの皮をまとうオオカミ」にじつによく似ている。人あたりもよく、うわべはとても穏やかなのだが、その素顔は悪知恵にあふれ、相手に対して容赦がない。ずる賢いうえに手口は巧妙、人の弱点につけこんでは抜け目なくたちまわり、支配的な立場をわがものにしている。
攻撃行動は基本的にふたつのタイプに大別することができる。
「潜在的攻撃性」と「顕在的攻撃性」だ。
みずからの目的や到達点をきちんと定め、その実現や獲得に向けて、うそ偽りのない、明白な態度で人と競い合うのなら、それはまぎれもない顕在的攻撃性に分類される。
だが、〝勝つ〟ことに執着するあまり、手段は選ばず、その意図を隠すために、陰にまわって人をあざむくのなら、そんな行動は潜在的攻撃性だと考えたほうが適切だろう。
攻撃性パーソナリティーは多くの点でナルシストの特徴と一致している。
そのため攻撃性パーソナリティーは自己愛性パーソナリティーの変形だと考える専門家もいて、実際、このタイプが自分に対して抱く過剰な自信、自己陶酔ぶりはよく知られている。
関心の対象は自身の欲望やみずからに課した目的や計画と、すべては自分にかかわるものばかりだ。
そして、目的の前に立ちはだかるものは、人であろうがなんであろうがその存在は断じて許そうとしない。
攻撃性パーソナリティーは5つの基本タイプに分類できる。
①非抑制的攻撃性パーソナリティー
②擬似適合的攻撃性パーソナリティー
③加虐的攻撃性パーソナリティー
④略奪的攻撃性パーソナリティー(サイコパス)
⑤潜在的攻撃性パーソナリティー
まずは〈非抑制的攻撃性パーソナリティー〉
このパーソナリティーの持ち主は、他者への敵意を隠したりはしない。
凶暴な言動も多く、しばしば犯罪的だ。
「反社会的」というレッテルを貼られるのがこのタイプで、すぐカッとなり、恐れや警戒心を正常に感じ取る能力が欠け、衝動的で向こう見ずでもある。
次に〈擬似適合的攻撃性パーソナリティー〉
このタイプも〝潜在的〟ではなく〝顕在的〟な攻撃性だ。
そして、ビジネス、スポーツ、司法、軍隊といった、好戦的であることが社会的に受け入れられている分野に攻撃の矛先が限られている場合がほとんどである。
タフであること、がんこであること、負けず嫌いといった特徴は、この場合むしろ賞賛の対象となっている。
競争や勝負の場では、「ひとつもんでやろう」「かわいがってやれ」などといった好戦的な言葉を好んで口にしている。
〈加虐的攻撃性パーソナリティー〉
これも顕在的攻撃性に分類されるパーソナリティーだ。
多くの攻撃性パーソナリティーがそうであるように、加虐的攻撃性パーソナリティーも権力に勝る地位を求め、人の支配を欲する。
だが、このタイプがほかと異なるのは、加虐的攻撃性パーソナリティーの場合、被害者が苦しみ、弱者としてはいつくばるその姿にとりわけ満足を覚えるという点だ。
〈略奪的攻撃性パーソナリティー〉
略奪的攻撃性パーソナリティーこそもっとも危険な攻撃性だ。
〝サイコパス〟〝ソシオパス〟と呼ばれるものこそ、この略奪的攻撃性パーソナリティーにほかならない。
攻撃性パーソナリティーの5番目の下位タイプが潜在的攻撃性パーソナリティーだ。
ほかのタイプと同様、このタイプもナルシストに通じる特徴があるのではと考えられるかもしれない。
だが、潜在的攻撃性パーソナリティーの場合、このタイプ特有の特徴が数多くあるので、それによってほかのタイプとはまぎれもなく異なる攻撃性パーソナリティーであることがうかがえる。
他人を支配したがる人はどこにでもいる。
そして大抵、その接し方に苦慮する。
場合によっては組織や人間関係に大きな問題を引き起こすこともある。
人間関係をめぐる大半のトラブルは、かたや精神的には独立して他者に対しては攻撃的である側と、その一方で、不安定な自分を抱え、他者に対してすがろうと必死になっている者のあいだで起きている場合がほとんどだ。
健全な性格の持ち主とは、本能的な衝動を抑制できる人のことだ。
自らの行為をその意味に照らし合わせて調整できる。
しかし、中には自らの攻撃性をコントロールできない人もいる。
そのことを十分理解しておく必要があるのではないだろうか。
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