行政学講義/金井利之
戦後一貫して、首相など内閣を補佐する組織体制の強化が求められてきました。しかし、首相を支えるべき総理府は、中身のない組織なので、役に立ちませんでした。総理府に大臣庁を置くと、それ自体が独自の基本単位になってしまいます。総理府は、これといった明確な所管事務を持たないので、総理府に本拠を置くキャリア官僚集団が成長しませんでした。そのため、内閣官房の強化が一貫して求められてきたのです。
行政学とは、私たちに支配の権力を及ぼす行政の目に見えにくい作用を、何とかして明らかにしようという学問である。
現代日本の統治は、民主主義に基づいているとされている。
では、民主主義とは何なのか。
本書では単純に、支配を受ける人々が、同時に支配者でもある、という「統治者と被治者の同一性」という考え方であるとしている。
政治と行政とは、支配を行う為政者集団のなかにおける上下関係を意味しているともいえる。
初期の明治体制においては、藩閥が上位支配者集団なので、その者達が政治家。
そして、藩閥のもとで下働きをするのが、行政職員に相当する。
現代では政治家とは、統治者集団のなかで、試験制度を通じないで、上層の幹部要職を占める集団。
行政職員とは、統治者集団のなかで、試験制度や資格任用制度を通じて形成される集団。
そして、行政職員のなかでも、上層の要職を占める行政幹部職が、しばしば「官僚」と呼ばれる。
それ以外の中下層を占めるのは、「吏員」と呼ばれる。
日本国憲法第15条は、以下のように定めている。
①公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
②すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
③公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
④すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。
ひっかるのは、②の「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」の部分。
素直に読めば、政権与党や内閣が、官僚の人事権を握ることはあってはならないということになる。
しかし、組織の論理から言えば、内閣が官僚の人事権を握らなければ、官僚は政治家のいうことを聞かないかもしれない。
そして、その矛盾から起こったのが「忖度」である。
このあたりが、今後の課題となってくるのではないだろうか。
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