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2020年10月15日 (木)

リスクを取らないリスク/堀古英司

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「日本の人は、頑張った人にご褒美が与えられるべきであることはよく理解している。実際、世界の標準的なルールもその通りだ。しかし日本の人があまり理解していない、又は理解を避けているもうひとつの世界標準のルールがある。それは、リスクを取った人にもご褒美を与えるという事実だ」。

リスクとは「損失を被る、又は不利な状況に陥る可能性」というのが適切な表現。

例えば、株式に投資すると損失を被る可能性がある。

また、会社に勤めている方が転職するときは、転職前に比べて不利な状況に陥る可能性もある。

こういった場合は「リスクがある」ことになる。

このように不利な状況に陥る可能性を覚悟したうえで、株式に投資したり転職したりするという行動を「リスクを取る」と表現する。

リスクに関する三つのルールがある。

第一に、人間はリスク回避本能を持っている。

第二に、ハイリスク・ハイリターン、ノーリスク・ノーリターン。

第三に、リスクとリターンのバランスは、需要と供給によってかわる。

確かに、人間はリスク回避的だ。

これは日本に限ったことではなく世界中の人がそうだ。

しかし、世界中の人が全くリスクを取らなくなったら、世界経済や人間の生活は大変なことになってしまう。

なぜなら世の中はリスクだらけであり、何らかの主体がある程度のリスクを負うことによって、他の主体が安心して暮らせるような仕組みになっているからだ。

何かを実行に移そうと思えば、必ず想定されるリスクが付きまとう。

重要なことは、リスクを想定することもそうだが、それを実行に移さなかったときに何が起こるかというリスクも想定すること。

実行したときのリスク、実行しなかったときのリスクの両方を分析し、最終的にどちらの選択肢を選ぶべきか判断を下さなければならない。

例えば、2008年のリーマンショック時、日本銀行は何をすべきだったのか?

当時日本銀行が国債をほとんど買わなかった。

つまり「リスクを取らなかったことがリスクだった」という結論は地理的・時間的に比較することによって導くことができる。

第一にアメリカとの比較。

アメリカは中央銀行が債券を購入する量的金融緩和を2008年11月から開始した。

2014年にかけて断続的に実施してきた結果、一時10%に達していたアメリカの失業率は2014年6月には6・1%にまで低下した。

リーマン・ショック後4四半期連続でマイナスだった経済成長率も持ち直し、2013年後半には3%台に回復するに至った。

これに対して日本では2008年、アメリカ同様4四半期連続でマイナスとなった後、2010年終わりから再び3四半期連続でマイナス成長となったり、2012年半ばに2四半期連続でマイナス成長となったり、とプラスとマイナスをさまよう状況が続いた。

早くから積極的な量的金融緩和を実施したアメリカと、量的緩和を躊躇していた日本で大きな差が付いてしまい、「リスクを取らないリスク」が顕在化した。

第二に、2013年3月まで日本銀行の総裁を務め、量的緩和を躊躇していた白川氏と、その後総裁に就任し積極的な量的緩和を実施した黒田氏で、その経済に与える影響は大きな差が付いた。

2012年12月の衆議院選挙で自民党が勝利し、量的緩和に積極的な次期日本銀行総裁に指名されるとの期待から、日経平均株価は2012年11月から2013年末にかけて90%近くも上昇した。

また同時期、外国為替市場でドル・円は80円から105円にまで上昇した。

あれだけ問題だった円高が止まり、そして景気の先行指標である株価が上昇し、結果的に「リスクを取らないことがリスクだった」というのが時間の比較でも明らかとなった。

日本人は極端にリスク回避的だ。

それは労働市場にもあらわれており、アメリカと比較すると明らかだ。

アメリカは就職も退職も自由な国。

逆に雇用するのもクビにするのも、基本的には雇用主の自由。

こうして労働市場に自由が確保されているからこそ、個人は、より自分の実力を発揮できる場所を求められるようになる

会社は、より適材適所を念頭に人材を雇用できるようになる。

ひいてはアメリカ中の人的資源が効率的に配分されることによって経済成長に貢献するという仕組みが成り立っている。

一方日本では憲法において職業選択の自由が保証されているとはいえ、アメリカほど労働市場で自由が確保されているわけではない。

その結果、労働者側からすれば特技を身に付けたり能力を上げたりしたのにそれを生かしきれない。

転職しようにもハードルが高い。

一度会社を辞めるとなかなか仕事が見付からない。

雇用主からしても、ビジネス環境に応じて必要な人材を採用する、柔軟に人材配置を変えていく、ということが効率的に行われていない。

ビジネス環境が日々変わっていく一方で、このように労働市場が非流動的という日本のシステムは、明らかに日本経済にとってマイナスだ。

今は「何もしないことが正解」という時代ではない。

「リスクを取らないリスク」

この言葉、自分に対する戒めとして心に刻んでおきたい。

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