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2020年10月22日 (木)

ファナックとインテルの戦略/柴田友厚

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 ファナックはその創業初期にインテルと出会い、1975年にいち早くインテルのMPUを自社のCNC装置へ導入したが、それにより日本の工作機械の競争力を飛躍的に高めて顧客層を大きく拡張した。IBMがパソコンにインテルのMPUを初めて導入したのは1981年だったことを考えると、それがいかに早い先進的取り組みだったのかは容易に想像できるだろう。パソコン産業より、なんと6年も早くMPUを導入したのである。

なぜ、ファナックとインテルなのか。

この二つの企業の組み合わせを奇妙に感じるかもしれない。

かたや、産業用ロボットや工作機械等、ファクトリー・オートメーション業界のリーダー企業であり、かたや、パソコン用のマイクロプロセッサを開発する半導体産業のリーダー企業だ。

確かに、ファナックとインテルは、一見、無縁に思える。だが、これもほとんど知られていない事実なのだが、パソコン産業より6年も早くマイクロプロセッサを導入したのは、実は日本の工作機械産業であり、それを主導したのがファナックだった。

現在の多くの工作機械には、パソコンに組み込まれているのとほぼ同様のマイクロプロセッサが組み込まれており、それによって自動制御されている。

その意味で工作機械産業は、パソコンと比肩しうるハイテク産業であるといっても間違いではない。

この二つの企業が歴史上交差することで、日本の工作機械産業は大きな革新を遂げて競争力を飛躍的に高めた。

当時インテルはDRAM事業からMPU事業への転換を模索しており、様々な試行錯誤を重ねている悩み多い時期だった。

ちょうどその頃、ファナックがMPUを量産機種に大量採用したことが、インテルのMPUへの路線転換を強力に後押しすることになった。

その後インテルは、ファナックとの共同開発で学習した品質管理能力をIBMのパソコン事業に生かし、それ以降、急速にパソコンのコア部品を供給する企業へと変貌することになる。

ファナックもまたMPUを使ったCNC装置の開発に、インテルの強力な技術支援のもとで成功し、その後の成長基盤を確実なものにした。 

本書で見えてきたものは、完成品に付加されることでその価値を高める補完財に着目する意義である。

完成品と補完財は、お互いに足りないものを補いあう関係になっており、両者がそろって初めて価値が高まる。

それは一方が売れると他方も売れる関係であり、いわば目的を共有した運命共同体のようなものだ。

完成品にこだわれば、市場の成長につれて日本にキャッチアップしてくるアジア諸国との直接対決を避けることはできない。

それに対して補完財に着目することで、最終製品を作るアジア諸国が台頭すればするほど、補完財の需要が増加するという、いわば共存共栄の構造を作り出すことができる。

中国地場企業の工作機械の生産高が増えれば増えるほど、補完財としてのCNC装置の需要が増えるのがまさにそれに相当する。

さらに技術進化の観点から考えると、補完財は完成品との間で相互促進的に価値を高めあう共進化サイクルが形成可能である。

それが形成されると完成品メーカーの持つノウハウや潜在ニーズ、あるいは直面する先端的課題などが補完財メーカーに流れ込み、その結果、補完財メーカーの技術優位は持続することになる。

本書で描かれている革新史から見えてくることは、最終完成品でもなく部品でもない第三の道としての補完財へ着目することの意義と可能性である。

人間と同様、産業においても、光が当たり注目を浴びる産業とそうでない地味な産業がある。

本書で描かれている工作機械産業は縁の下の力持ちのような産業で、どちらかといえば後者に属するだろう。

そして、見えないところで、日本のものづくり全体を下から支えてきたのである。

この四半世紀、一貫して世界最大の生産高を誇ってきた産業がある。

それが工作機械産業だ。

日本の工作機械産業は1982年に米国とドイツを抜いて世界一の生産高に躍り出て以来、2008年のリーマンショックまで、なんと27年間にわたって世界一の生産高を守り続けた。

生産される機械や部品の精度は、それを作り出す工作機械の精度によって決まる。

つまり、作られる機械や部品は、それを作り出す工作機械の精度を超えることができない。

これは、工作機械の「母性原理」と呼ばれる。

日本のものづくりの可能性を工作機械に見ることができるのではないだろうか。

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