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2020年11月17日 (火)

安売り王一代/安田隆夫

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 私はことごとく業界の「逆張り」を実践してきた。しかも計算ずくの逆張りではなく、むしろ苦肉の策として逆張りせざるをえなかった。しかし、逆張りで勝負したからこそ、誰にもマネのできない企業を育てることができたのだと思っている。

ドンキという企業の本質をひとことでいうなら、それは「権限委譲」だと著者はいう。

たとえばドン・キホーテ一号店の時代から、商品の仕入れ、陳列、販売等にいたるまで、店の業務はすべて部下に権限委譲し、いっさい口を出さなかった。

これはまさに業界の常識を覆す発想だが、当初は窮余の末にひねり出した苦肉の策だった。

だが結果的に、部下に全幅の信頼を置いて権限委譲したからこそ、社員は見違えるように働き出した。

社長は店舗開発とか財務戦略など、「これだけは経営者がやらなければならない」という中核業務だけに集中する。

そうした分業体制が好循環的に機能し、ドンキは倍々ゲームで急成長、会社は一挙に巨大化した。

つまり徹底した権限委譲こそ、ドンキ最大のサクセス要因であり、また存立基盤そのものなのだ。

ドンキの特徴の一つは「圧縮陳列」だ。

まるでジャングルのように商品が陳列されている。

今日のドン・キホーテの姿は、すべて「泥棒市場」の成功と失敗の上に立脚していると言っても過言ではない。

それほど「泥棒市場」は、著者とって強烈な原体験の場となった。

ドンキの前身「泥棒市場」の時代、不思議なことに、圧縮陳列を始めてからのほうが、お客さまの受けが良くなったという。

掘り出し物がないかと期待感をもって丹念に見て回ってくれるし、当時は値付けもイイカゲンだったので、実際に掘り出し物は多くあった。

流通の教科書には「見やすく、取りやすく、買いやすく」が小売店舗の鉄則だと書いてある。

しかし、「苦肉の策」として逆張りをした結果、そこに鉱脈があることを発見した。

著者は頑として流通のプロや経験者を雇わず、ドン・キホーテをあくまで素人集団で押し通した。

それくらい、事業、業態としての独自性にこだわった。

なぜそこまでこだわったのか。少なくとも、定番商品を主体に、教科書どおりきちんと整理整頓された店や売場に、「買い物の面白さ」は決してないこと。

これが「泥棒市場」で私が学んだ最大の教訓だった。

ところが圧縮陳列のやり方、現場の社員に教えようとしてもなかなか教えられない。

そこで「これでダメならきっぱり諦めよう」と腹をくくって、「教える」のではなく、それと真逆のことをした。

「自分でやらせた」のである。

それも、一部ではなく全部任せることにした。

従業員ごとに担当売場を決め、仕入れから陳列、値付け、販売まですべて「好きにやれ」と、思い切りよく丸投げした。

しかも担当者全員に、それぞれ専用の預金通帳を持たせて商売させるという徹底ぶりである。

これこそ、のちにドンキ最大のサクセス要因となる「権限委譲」と「個人商店主システム」の始まりだ。

要は自ら考え、判断し、行動する「体験環境」を用意してやれば、従業員たちに〝頭脳と創造性〟がひとりでに育ってくるのである。

権限委譲によって、仕事が労働(ワーク)ではなく、競争(ゲーム)に変わったからだ。

社員同士で競いあいながら、面白がって仕事をするようになれば、以心伝心でお客さまもそれを面白がり、店は一気に熱気と賑わいに包まれて行く。

ゲームをする上で、著者は以下のような方針を定め、厳守させた。

・明確な勝敗基準

・タイムリミット

・最小限のルール

・大幅な自由裁量権

これが成功の決め手になった。

権限を委譲する上での最大要件は、ベタな言い方だが「人を信頼すること」──これに尽きる。

社員を信頼し、仕事を任せれば、皆一生懸命になる。

さらに仕事が面白くなってゲーム化することで社員には「勝ちたい」という強い気持ちが芽生える。

当然のことながら、勝つと嬉しいし、負けると悔しい。

だからゲームはやめられなくなる。

この繰り返しにより、皆のレベルがスパイラル的に上昇し、現場はどんどん進化し、何度も脱皮して成長する。

この好循環こそ、他の多くの流通小売業と全く違う文化とDNAを持つ、ドン・キホーテの根源的なパワーの源である。

権限移譲がいかに従業員のパワーを生み出すか。

ドンキの成功はそのことを教えてくれる。

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