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2020年11月23日 (月)

最後の相場師是川銀蔵/木下厚

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 是川の投資方法はまったく違った。実にオーソドックスで、理詰めである。是川は、自身の相場哲学について、こう語っている。
「株は最高の経済学。あらゆる経済現象が集約されているのが株価や。私は、その経済現象を細密にわたるまで徹底的に調査・分析をして結論を出し、信念を持って投資しておる。だから、少々のことでビクついたり、弱気になったりはしない。場合によっては、2年でも3年でもジッと持ち続ける。そのうちに、必ず私が予想した通りになる。チャンス到来だ。そのとき、一気に勝負に打って出るわけや」


かつて、相場道をかたくなに守り通しながら、ただひとり勇猛果敢につぎつぎと大勝負を仕掛けて証券界をアッといわせてきた男がいた。

「最後の相場師」「怪物投資家」「希代の相場師」「相場の神様」などと数多くの異名で、いまなおその名を知られる是川銀蔵だ。

1897年7月28日に兵庫県赤穂市に生まれた是川が、さまざまな職業を転々とした後、本格的に株式投資を始めたのは34歳のときである。

以後、1992年9月12日に95歳でこの世を去るまでの約60年間にわたって「生き馬の目を抜く」世界で生き抜いてきた。

「最後の相場師」と呼ばれた是川だが、自分のことを相場師とは言っていない。

「その理由は、私が“〝相場師”〟ではなかったからや」、生前、是川はきわめて明快に、そう言い切っている。

さらに続けて、こうも語る。

「相場師というのは、ロクに調査・研究もせず、僥倖を当てにしたり、イチかバチかの投機的な考えで投資する人のことを指すのや」

そういう意味では確かに是川は相場師ではないだろう。

是川は銘柄を徹底的に調査する。

しかも、自分の足で歩いて、そして経営者に会って事柄を確認したうえで、これまでのご自分の人生経験、知識、あるいは調査に基づく幅広い視野で判断し、行動を起こす。

これが行動の原点になっていた。

是川は決して天才型の人ではない。

もちろん、隠れた才能や能力は生まれたときから持っていたものであろうが、それに研きをかけ開花させたのは、まさに血の出るような努力と「待ったなしの真剣勝負」による経験である。

そういう意味では、典型的な努力型の人である。

是川のいう“〝カメ3則”〟というものがある。

「ウサギのように己れの力を過信して勝負を急ぐのではなく、カメになったつもりでマイペースを守り、時間をかけてじっくり勝負すること」である。

いわば、是銀流の“〝自戒3原則”〟というべきものだ。

その3原則とは──、銘柄は水面下にある優良なものを選び、値上がりをじっくり待つこと。

毎日の経済の動きから目を離さず、自分で勉強する。

証券会社、新聞、雑誌の宣伝のたぐいに惑わされないこと。

過大な思惑はせず、手持ちの資金内で行動すること。

是川は、92歳を迎えた当時、波乱万丈の人生を振り返り、

「七転び八起きの人生というが、私の場合は、それじゃ勘定が足らんのだ。転んでは起き上がり、また転んでは起き上がり、そんなことを92歳の現在まで何十回となく繰り返してきたもんや」 

明治、大正、昭和、そして平成の4代を生き抜くことになった是川、こんな人物、もう現れないだろうなと思う。

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