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2020年12月22日 (火)

AIに負けない子どもを育てる/新井紀子

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・幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。
・1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。
以上の2文は同じ意味でしょうか。
 もちろん、答えは「異なる」です。けれども、中学生の正答率は57%に留まりました。

企業の中間管理職の方たち。

「上からは生産性を上げろと言われるが、現場はメールや仕様書の誤読による予期しないトラブル続きで働き方改革どころじゃない。すると能力の高い人材から転職してしまう。一度そのサイクルに陥ると、なかなか立ち直れない」

と言う。

現状、あるいは近未来のAIは、AIに都合のよいデータが膨大に集まったときにのみ、その能力を発揮し、それ以外の「細かいこと」ではあまり役に立たないということを示唆している。

AIは文章を「読む」という行為が苦手。

ところが、今の人たちも「読む」行為が苦手になっているという。

テストを通して明らかになったのは、文章を正しく読めるかどうかは、語彙の種類や量は環境要因で大きく左右される、という事実。

行間をくみ取る前に、「行中」を読めるようになるためには必ずできなければならないことがある。

それが、文の作り(構文)を正しく把握したり、「と」「に」「のとき」「ならば」「だけ」など、機能語と呼ばれている語を正しく使えるようになること。

心配なのは、家庭環境や地域によって語彙量に相当の差があること

加えて、小学3、4年生あたりで、本や教科書の読み方や、板書の読み方に決定的な差が生まれ始める。

それは、機能語の部分を正確に読む子とそうでない子の差。

機能語を正確に読みこなせないと、教科書を読んでもぼんやりとしか意味がわからない。

ある教授のことば。

「君たちはノートを写す、ということなど極めて退屈で無意味な作業だと思うのだろう。だが、皮肉なことに、君たちが侮る作業を機械に頼ることによって、実は君たち自身の質を低下させていることに気づいていない」

昔は先生が黒板に書いた文章をノートに写していた。

ところが、今は先生はノートに写さなくてもよいようにプリントしたものを生徒に配付しているという。

そしてそのようにする先生のほうが評判がよいのだという。

子どもは、言葉と論理の「タネ」を宿して生まれてくる。

数量感覚も相当早くから持っていることが認知心理学の実験からわかっている。

1歳前後になると歩き始める。

うれしそうにニコニコ笑いながらよちよち歩き、転んで泣く。

が、それで二度と歩かないという子はいない。

何度転んで泣いても、また歩き、次はしゃがむ。

歩いて、しゃがんで立って、それを繰り返しながら外の世界が「どのような理で成り立っているか」を探検し始める。

外の世界には、犬や、ゴマ粒のように小さい黒いアリがいる。

たいていの親は「ワンワンだねぇ」とか「アリさんがいるね」とは言っても、「犬(アリ)が歩いているね」とは教えない。

けれどもなぜか、小さい子はそれらが「歩く」と理解する。

一方、車や電車は動くが歩きません。どうやって彼らがそれらを区別しているのか、なぞだという。

幼児が自分の五感で感じ取った外部世界のリアリティを「毛のふさふさした茶色の犬が飼い主と歩いている」という記号列でしかない文を徐々につなげていく。

それが「意味を理解しながら文を読み書く」ということの第一歩となる。

それを成功させる上で、幼児期の外部との濃密な接触と身近な大人たちが使う母語となる言葉のシャワーの果たす役割は極めて重要なことは明らかだ。

けれども、そのような幼児の権利は現代では無視されがちだ。

この10年で、幼児が2歳を超えてもバギーに乗せられて移動するのを多く目にするようになった。

親の都合が優先され、一番歩きたい・走りたい盛りの1歳から4歳までの「歩く権利」が奪われている。

人間は怠惰な生き物だから、一度バギーに乗る「楽さ」を覚えると、今度は歩かせようとしても歩かなくなる。

車に乗ることが日常のアメリカや日本の地方の人々が、1キロの距離を歩けなくなるのと同じ。

人間の最も優れているところは、意味を理解できることと、怠ける天才であること。

近年、AIが仕事を奪うことが懸念されている。

そうならないためには、人間はAIの苦手な分野の能力を伸ばすことだ。

大人になってからでも遅くはない。

読解力を伸ばす訓練をすべきだ。

読解力が上がると、生産性が向上する。

がむしゃらにこなしている仕事のやり方も変わり、自己肯定感も高まる。

AIに仕事を奪われることを恐れる必要もなくなる。

今の仕事を奪われても、高い読解力を持つ人材は引く手あまたなので転職すればよいだけだ。

それほどメリットが大きいのだから、読解力向上に投資する価値は十分あるのではないだろうか。

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