謙虚なリーダーシップ/エドガー・H・シャイン、ピーター・A・シャイン
リーダーシップとは、関係性にほかならない。そして、真に成功しているリーダーシップは、きわめて率直に話をし、心から信頼し合うグループの文化のなかで成果をあげている。
リーダーシップとは、なんらかの「決まった手順」を踏んで発揮すべきものではない。
新たな、よりよいことを成し遂げようとするグループ内で共有されるエネルギーである。
リーダーシップとは、関係性に他ならない。
関係性には4つのレベルがある。
レベルマイナス1 全く人間味のない、支配と強制の関係
レベル1 単なる業務上の役割や規則に基づいて監督・管理したり、サービスを提供したりする関係、大半の「ほどほどの距離感を保った」支援関係
レベル2 友人同士や有能なチームに見られるような、個人的で、互いに助け合い、信頼し合う関係
レベル3 感情的に親密で、互いに相手に尽くす関係
20世紀の伝統的な経営文化は、決められた役割と役割の間にできる、単なる業務上の一連の関係と言える。
そのような関係では、率直に話すことも信頼し合うこともあまりできない状態が意図せず生み出され、それゆえ、本当に効果的なリーダーシップを実践するのが困難になってしまう。
このような単なる業務上の関係を、著者は「レベル1」と呼んでいる。
一方、グループ内およびグループ間のより個人的な関係の上に築かれる、もっと個人的で、信頼し合い、率直に話をする文化と深く関連するモデルを、著者は「謙虚なリーダーシップ」として提案している。
このような関係が、「レベル2」である。
リーダーが文化をつくるのか、それとも、文化がリーダーを生み出すのか?
リーダーは常に文化を生み出しているが、文化は、リーダーシップの意味と、一人ひとりのチェンジ・エージェントが許される行動を、絶えず制限する。
社会生活を営む私たちは、文化の外へ出ることはできないが、自分たちの文化を知ることと、他者と関係する活動としてのリーダーシップが、どのように文化によって形づくられ、文化を形づくっているかを理解することは可能になってきている。
眼前に迫った環境、社会、政治、経済、技術の変化に適うには、経営文化がどの方向に進化する必要があるかも、わかってきている。
謙虚なリーダーシップという概念は、まさにその必要性から生まれており、相互作用する性質にスポットを当てている。
リーダーシップとは、新たな、よりよいことをしたいと思い、それをほかの人たちに一緒にしてもらうことである。
世界中の組織が、ますます加速する変化のスピード、地球規模での相互のつながり、多文化主義、技術の進歩のペースに、懸命に対応しようとしている。
気候変動が速度を増している。
製品特化も加速している。
文化的多様性もまた然りである。
このような世界で後れをとらずにいるためには、いっそう打ち解けた関係になって、より高いレベルの信頼と率直さを生み出し、それを土台にしたあらゆる種類のチームワークと協働が不可欠であることが明らかになってきている。
成功し、生き残る確率を高められるのは、自己イメージを一新できる組織、適応力ある有機的組織体にみずからをデザイン・再デザインできる組織だ。
この再デザインのために、現代の組織のトップ層にも、内部にも、周囲にも欠かせないのが、もっと個人的な関係を重視するリーダーシップである。
謙虚なリーダーシップは、この加速度的なシステムの変化に対応しうる関係をつくったり示したりする。
そして、加速する変化を活用するという重要な適応力を、作業グループが養い、維持できるようにする。
このような環境に身を置くリーダーは、絶対的に謙虚にならざるをえない。
なぜなら、あらゆる答えを見つけられるだけの知識を一人の人間が積み上げることは、事実上、不可能だからである。
相互依存と絶え間ない変化が当たり前の、この複雑な状況にあっては、謙虚であることが、生き残るための不可欠なスキルになっている。
謙虚なリーダーシップの基盤は、レベル2の個人的な関係である。
この関係は、率直に話し、信頼し合うことが土台になり、その状態を促進する。
作業グループの関係がまだレベル2になっていないなら、自然に生まれる謙虚なリーダーはまず、作業グループのなかで、信頼を確立し、率直な発言を促す必要がある。
作業グループにレベル2の関係ができている場合は、有用な情報や専門知識を持っている人が、自由に発言し、グループの目標を推進できるようにすることによって、謙虚なリーダーシップが現れる。
レベル2の関係をつくって維持するプロセスには、学習するマインドセットと、進んで協力する姿勢と、対人およびグループ・ダイナミクスのスキルが不可欠である。
変化の激しい環境で複雑な課題に取り組むグループが成果をあげるには、そうしたマインドセットと姿勢とスキルを育てることが、メンバー全員にとって必要になる。
そのため、謙虚なリーダーシップは、個人的な行動であると同時に、グループ現象でもある。
未来に必要なのは新たな考え方、すなわち「謙虚なリーダーシップ」である。
これは、率直に話し、信頼し合う、レベル2の関係が基盤になっている。
関係とは、過去のやりとりに基づき、未来の互いの行動を、互いに予想できることである。関係が築かれているときには、相手の行動が互いにある程度、読めるのだ。
「よい関係」ができている場合には、相手に関してあるレベルの安心感、つまり、相手の反応について想像がつくために安心感を覚えることができる。
さらには、合意したり自明の前提であったりする目標に向かって、ともに取り組んでいるという確信も共有している。
そういう安心感は、しばしば「信頼」という言葉で表される。
互いに相手に期待できるものを「承知している」状態だ。
信頼のレベルは、私たちの行動と相手の行動が一貫している程度を示すのである。
まとめると、仕事上の関係のレベルは結局、するべき仕事の質とリンクしている。
その仕事に、協力と、率直な話し合いと、互いの献身への信頼が不可欠であればあるほど、レベル2の「一個人として相手を見る」関係が必要になる。
レベル1の、単なる業務上の関係で十分な仕事は、今後もなくなることはないだろう。
だが、はっきり知らなければならないことは、そうした関係には、率直さと信頼の点で限界があること。
もっと率直に話し、信頼し合う必要があると主張しても、それだけでは実現しないこと。
経営文化をレベル1からレベル2へ進化させること、それが、謙虚なリーダーシップの最重要の責務なのである。
謙虚なリーダーシップにとっての挑戦は、レベル2の信頼と率直さを築くことだ。
それも、より個人的なことを尋ねたり話したりしながら、同時に、レベル1のほどほどの距離感を保って堅苦しくなることも、レベル3の親密さと捉えられかねないほどプライベートに踏み込むのも、避けることによってである。
謙虚なリーダーシップというスキルは、堅苦しすぎるという一方の極と、親密すぎるというもう一方の極の間で、巧みにバランスをとる力のことなのだ。
つまるところ、謙虚なリーダーシップとは、レベル1の業務に終始する文化を、パーソナイズされたレベル2の文化へ進化させることがすべてである。
謙虚なリーダーシップとは、弱さを受け容れ、レベル2のつながりを通じて、しなやかに適応する力を育むことである。
「謙虚なリーダーシップ」、これからのリーダーシップを論じる上でのキーワードになってくるのだろう。
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