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2020年12月25日 (金)

MaaS戦記/森田創

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 「日本のIT化は遅れている」という声の一方で、日本のアナログサービスの質の高さには定評がある。それ自体は誇るべきことで、国際競争力にもなりうる。だが、すべてをスマホに置き換えることに無理があるのと同様に、少子高齢化が進む中で、アナログ一本槍というのも現実的でない。

MaaS(Mobility as a service)とは直訳すれば「サービスとしてのモビリティ」となる。

本書は東急のMaaSプロジェクトチームの取り組みの記録である。

対象としたのは伊豆半島。

伊豆半島は、年に4センチ、本州方向に向かって動き続けている。

だが、フィリピン海プレートの地殻活動よりもはるかに速く、伊豆の高齢化と人口減少は進み、観光地・伊豆は滅びようとしている。

バス会社やタクシー会社は、運転手不足と過疎化により、減便を余儀なくされる。

観光客の足が遠のくだけでなく、地元住民の移動も不自由になり、地元のコミュニティーが衰退する。

人口流出が続き、交通や観光など伊豆を支える主要産業が足元から崩れる。

さらに人の移動が減るので、バス会社やタクシー会社は減便し、同じことが繰り返される。

タクシー会社はつぶれ、店舗のシャッターは閉じられ、集落は消えていく。

かつて人々を魅了した旅館、料理、サービス、景色が音もなく消えて、二度と戻らない。

このプロジェクトチームの仕事は、「21世紀の産業の交差点」と呼ばれるMaaSの取り組みを通じて、伊豆を負の循環から救い、消滅へのカウントダウンを刻む時計の針を逆回転させることだ。

スマホ一つで、行きたい場所に快適に移動でき、移動目的となる観光体験も含めて、手軽に予約決済できるMaaSは、観光客を伊豆に呼び込むきっかけになる。

それだけでなく、取得できる観光客のデータ分析により、人手不足に悩む交通・観光事業の収益向上や省力化も期待できる。

伊豆再生の救世主となる可能性を秘めている。

MaaSは、世界でも生まれたばかりの新しい産業だ。

MaaSとは何か。

スマートフォン等で、それぞれの需要や目的地に応じて、最適な交通手段が提示される。

その際の乗り換え経路や料金が表示されるほか、予約やチケット購入もできるサービス。

またそのことを可能にする、交通体系や社会制度のこと。

自家用車の時代からシェアする時代に変わり、欧州では2025年までの自動車EV化(電気自動車化)が叫ばれる社会的文脈の中で、公共交通の利用率を高めることで環境負荷を軽減させる目的が背景にある。

2015年、フィンランドのヘルシンキを皮切りに、欧州の数都市でサービス開始。

世界の中でも非常に新しい産業だが、日本では取り組み実例はない。

集まった利用データを分析し、少ない運転手や車両を利用状況にあわせて稼働させることで、有効活用する狙いがある。

だからフィンランドなど人口の少ない国で取り組みが早い。

スマホ一つで、あらゆる交通手段を予約・決済し、目的地にいつでも行けるようになる。

それがMaaS。

伊豆半島は、東京都心から西南方向に100~180キロメートルの距離に位置する、縦60キロメートル、横幅40キロメートルの巨大な半島だ。

今のままでは伊豆半島は衰退の一途。

「年間100人の子供が生まれ、500人が亡くなり、900人が引っ越し、700人が転入してくる。合計するとどうなるか?」

正解は、「年間600人減る」

これは、下田市の現状を表したものだ。

人口2万1000人の下田市で年間600人ずつ減ると、どうなるか。

伊豆MaaSの中心地区である下田市は、「消滅可能性都市」の一つであり、このまま推移すれば、市制が維持できなくなる日も、遠い未来のことではない。

だからこそ、MaaSの中心地区に選んだ。

交通事業者の人手不足が進む中で、高齢化や働き方改革で多様化する住民ニーズに応えるために、異なる目的地同士をうまく組み合わせることで、1台の車両で吸収できる仕組みを作る。

人手を増やさなくても、ITによる需給マッチングで、さまざまなニーズの多様化に対応できれば、高齢化にともなう、田園都市線沿線の衰退を食い止めることができるかもしれない。

交通や観光をITでつなぎ、お客さんが行きたいところに行ける仕掛けを作る。

全ての会社のサービスをITでつなぎ、お客さんから一つのサービスのように見えるようにする。

それが、いわゆるMaaS。

日本はデジタル化が遅れているという。

しかし、何でもかんでもデジタル化すればよいというものではない。

私たちは、アナログとデジタルの強みを、最高の形で組み合わせることで、利用者にとっても快適で、事業者の省力化も図れるサービス実現を目指すべきではないだろうか。

アナログとデジタル。どちらかを否定するのではなく、最強のマッチングを目指しながら、データ活用によって運営を改善し続けられる仕組みが作れれば、地域のサービス水準を向上させ続けることができる。

この好循環こそが、地域創生の源泉となる。

そしてこれはアフターコロナの展開にもつながってゆく。

コロナにより世の中のリモート化が急速に進んだことで、全体的なITリテラシーも向上している。

混雑回避しながら安全かつ快適に観光するためにも、混雑する観光案内所で行列を作るかわりに、交通や観光チケットを事前決済できるMaaSが一層推奨されるはずだ。

テレワークの浸透により、働き方も柔軟になる。

首都圏から近く、美しい自然環境に抱かれ、ゆったりと仕事ができる伊豆でのワーケーション需要は、さらに高まるはずだ。 

アフターコロナでは、対人接触を避け、安全に観光を楽しむために、交通や観光チケットを事前決済し、決済画面を見せるだけで電車やバス、観光施設が利用できるMaaSの需要は一層高まる。

伊豆半島から始まったMaaSの取り組み。

これからの展開に注視してゆきたい。

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