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2020年12月16日 (水)

戦場の軍法会議/NHK取材班、北博昭

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 死刑ありきという〝空気〟の中で、上官から死刑を〝正当化〟するために法的な根拠を示すよう迫られた馬塲が搾り出した罪状は「奔敵未遂」。「英語が堪能な」中田上等機関兵は、戦わずして敵の捕虜になろうとしたが、未遂に終わった、という罪によって、死刑を宣告されたのである。

軍法会議は、二つの異なる役割を持つ特殊な裁判だ。

軍隊の中において、兵士の人権を守る最後の砦としての役割を持つ一方で、戦況の悪化によっては彼らに罰を科して軍紀引き締めを行うという役割も持っている。

しかし、この二つの役割があるため、いったい何が「善」で、何が「悪」なのか、答えを出すことが極めて難しかった。

満足な食糧も与えられず無謀な戦いを強いられた兵士の人権を守る立場にたてば、逃亡は「悪」ではない。

敵に勝つことが至上命題となる軍の立場にたてば、「逃亡」は「悪」で、それを厳しく罰する行為は「善」となる。

つまり法務官にとっては、どちらの立場にたつかによって、兵士の人権を守ることも、彼らに罰を科すことも、〝正義〟となるのだ。

これこそがまさに戦争なのだろう。

軍法会議は、この二つの〝正義〟がぶつかり合う、戦争の最も醜い部分を映し出す〝合わせ鏡〟のようなものだと言えよう。

そして、間違っていると分かっていても、組織が決めた大きな流れには個人がなかなか逆らえず、都合の悪い証拠は隠蔽しようとする風潮。

これらの問題点は、現代の日本社会にも気味が悪いほど当てはまるのではないだろうか。

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