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2021年1月 8日 (金)

1on1の技術/小倉広

1on1

 例えば、1on1という皿の上にコーチングという料理を載せれば「部下の目標達成を上司が支援する」場になるでしょう。また、そこに心理カウンセリングという料理を載せれば「上司が部下の話を傾聴し、部下の全人格的な成長を促す」場になるでしょう。しかし、もしも「上司が部下を否定し、追い詰める」という料理を載せれば、1on1は単なるパワーハラスメントの温床になってしまいます。これでは、部下にとっては地獄です。

1on1ミーティングとは、「上司と部下の間で、週1回~月1回、30分~1時間程度、用事がなくても定期的に行う1対1の対話」のこと。

先端的なIT企業が集中するシリコンバレーを中心に、米国では数多くの企業が1on1を実践している。

最初に1on1を経営の重要事項として位置づけたのはインテル社の元CEO、アンドリュー・グローブ氏だと言われている。

現在、1on1を導入している企業として、以下のような企業が挙げられる。

インテル、マイクロソフト、グーグル、ヤフーなどの外資系IT企業を筆頭に、グリー、クックパッド、日清食品、カルビー、村田製作所、モノタロウ……などなど。

業種を問わず多くの企業が1on1を導入している。

1on1により期待される効果として、最初に挙げられるのは会社と社員のエンゲージメント(絆・愛着)だ。

エンゲージメントが高まれば、以下のように様々な副次的効果が期待できる。

第1の副次的効果は組織の「アジリティ(俊敏さ)とスピード向上」。

第2の副次的効果は「意欲向上」。

第3の効果は「スキルアップ」。

第4の効果は「理念・戦略へのアラインメント(方向の調整)」。

第5の効果は、問題の早期発見、対処。

第6の効果は、リテンション(人材の維持・離職防止)。

1on1の目的は、短期的な業務の課題解決ではない。

中長期的な自立的人材の育成、およびエンゲージメントの構築にある。

その際、頭の中に置いておくと良いツールがある。

それが2つのサイクル。

一つ目はデビッド・コルブが示した「経験学習サイクル」

人は知識から学ぶのではない。

経験から知識が導き出された時に初めて深い学びが起きる。

経験を伴わない知識は机上の空論。

コルブが示したこのサイクルは始点を「経験」に置いているところがユニークであり、かつ実務的。

2つ目のサイクルは、ダニエル・キム教授が提唱した「組織の成功循環モデル」。

最初に「結果」を求めるのではなく「関係の質」を向上させる。

すると、「思考の質」が上がり、「行動の質」が上がって「結果の質」も上がる。

キム教授が提唱する「関係の質」を高めること、すなわち1on1の積み重ねで達成できるエンゲージメントの向上は、この一連の過剰さに「ゆとりと落ち着き」をもたらす。

つまり上司が部下に対して行う「傾聴」「勇気づけ」などにより、1on1で日頃から「所属」を実感できている部下は、過剰な劣等感を感じる必要もなければ、過剰に高い目標を掲げる必要もなく、現実的で常識的な目標を掲げる。

だから、落ち着いて課題に対処できる。

1on1を実施するにあたり「上司側の1on1スキル」を高めることは最も重要かつ必要最低限な施策となる。

1on1に必要となる5つのスキルは次の通り。

1傾聴

傾聴とは「相手の話を注意深く共感してていねいに聴く」こと。

この技術は、アドラー心理学にかかわらず、あらゆる流派の心理カウンセリングやコーチングの最も基本となるスキルであり、1on1において一番のベースとなるもの。

2勇気づけ

勇気づけとはアドラー心理学のカウンセリングの中核的技法。

アドラー心理学における勇気とは「自分には能力があり、周囲の人は仲間である」という感覚。

そして、この感覚が高まれば、人は自然と「優劣、正誤、上下、善悪」を越えた平等へ向かい、違いを活かす協力の方向へ向かうとアドラー心理学では考える。

逆に人は勇気を失うと「自分さえ良ければいい」と他者を邪魔しながら自己の利益を追求する行動を取りがちになる。

3質問

上司が部下に効果的な質問を投げかけることで、部下の頭の中に空白が生まれ、部下はそれを埋めようと思考を深める。

それこそがまさに経験学習サイクルの推進であり、1on1の教育的効果を高める。

また、質問によるコミュニケーションは部下の自己決定を促進し、自己効力感を高める。

4フィードバック

フィードバックとは「出力された情報を出力者へ還元することで行う制御の方法」。

ビジネス現場で使われる本スキルは「目標と部下の行動とのギャップを部下に伝えること」となる。

フィードバックは効果的に用いられれば、目標達成へ向けて極めて適切な制御となると共に、教育的効果も高くなる。

5結末を体験させる

アドラー心理学における独特の教育技法。

相手に答えを教えるのではなく「失敗も含めた体験」をしてもらい、そこから学んでもらうというスキル。

以上が1on1に必要となるスキルだ。

いずれにしても、1on1が定着するかどうかは上司がこのスキルを身に付けることが出来るかどうかにかなっているということではないだろうか。

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