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2021年1月 7日 (木)

「強い会社」に変わる仕組み/松岡保昌

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 組織戦略がうまくいくには、少なくともその会社がめざす「企業理念」が明示され、その会社の強みとなる「コア・コンピタンス」が発揮され、それを強化するための「仕組み・制度・施策」が導入され、機能していなければならない。

どうしたら会社は変わるのか? 変われるのか?

その答えは、「仕組みや制度を変え、それにともなう施策を続けることで必ず変わることができる。ただし、どの会社にも万能な仕組み・制度・施策などない」だ。

自社の「ビジネスモデル」や、自社の強みである「コア・コンピタンス」を理解し、十分に検討したうえで、その成功事例である組織戦略の「仕組み」や「制度」それにともなう「施策」を取り入れないと、成功どころか、逆に失敗してしまうケースすらあるのだ。

「コア・コンピタンス」とは、経営学者のゲイリー・ハメル氏とC・K・プラハラード氏がその著書の中で紹介した、「顧客に対して、他社には提供できないような自社ならではの価値を提供する、企業内部に秘められた独自のスキルや技術、ノウハウの集合体であり、企業の中核的な力」のことである。

経営者や管理職は、自社の「ビジネスモデル」を認識したうえで、自社の「コア・コンピタンス」は何か、自社の「強み」と「弱み」をたえず分析し見直し、市場や世の中の変化に合わせて、現在の戦略のままでいいのか、違う戦略に変えなければならないか、常に考え続けるのだ。

上手に変化に適応した事例としては、フィルム事業の衰退をいち早く察知した富士フイルムが有名だ。

写真フィルム製造で培った中核となる高度な技術や知識資産を活用し、半導体プロセス材料などの産業機材や、化粧品、医療分野などへの多角化を果たした。

自社の「コア・コンピタンス」を理解し、「ビジネスモデル」や「企業文化」に合った「仕組み・制度・施策」でなければ、効果は出ない。

「コア・コンピタンス」は不変ではない。

だから、組織戦略の「仕組み」や「制度」、それにともなう「施策」も、常に見直し、進化させていかなければならない。

「コア・コンピタンス」は人によって認識が違ってはならない。

経営者の考えと、幹部や社員が別のとらえ方をしていては組織として機能しない。

経営会議や戦略会議でも常に確認し続け、共有する必要がある。その「強み」が活き続けているか、「弱み」を補う手立ては打たれているか、常に検証する必要がある。

「企業理念」とは、どのような価値を提供して企業が存続したいのか、社会からどのような支持を集めて発展したいのか、それを実現させるためにどのような考え方や行動がその会社では理想とされ評価されるのかを示したものである。

「企業理念」を実現するのはまさに、人。

「コア・コンピタンス」を考え、進化させるのも結局は、人。

だからこそ、この2つを強化するための組織戦略の「仕組み」「制度」、それにともなう「施策」が必要なのであり、その良し悪しが企業力の差になっていく。

「強い会社」には、いわば「対症療法」とは対極的な「原因療法」ともいえるような仕組みがある。

社員が自ら「企業理念」を実現し、「コア・コンピタンス」を強くするための能動的な行動を自然発生的に生み出すような「仕組み・制度・施策」がある。

そして、このような実行すべき「仕組み・制度・施策」は、会社によって異なる。

いわば、会社という生き物に、神経を通し、血液を通わせ、1つひとつの細胞が自ら動くようにしていくものこそが、「仕組み・制度・施策」である。

「仕組み・制度・施策」は自社がめざす「企業理念」や、「コア・コンピタンス」を考えたうえで、目に見えない魂のような「企業文化」をふくめて設計していくのが重要だ。

人が自ら動き出すような会社になるためにも、「企業理念」や「ミッション」「ビジョン」が、本当に浸透すれば、それだけで働く人を熱くさせる力がある。

だからこそ、明確にし、明示すべきなのだ。

「会社が世の中に提供している価値に共感できるかどうか」

「会社の社風や求められる働き方に共感できるかどうか」

「社外規範」と「社内規範」、この2つに共感できないと、人は本気では働けない。

ファーストリテイリングで多くの社員が本気になったのは、経営トップが掲げる「日本には、高くて良い服と安くて悪い服しかない。安くて良い服があってもいいではないか」「個性は服にあるのではなく、着ている人にあるはずだ」という社会に提供する価値観に共鳴したからだ。

いつでも、どこでも、だれでも着られる、ファッション性のある高品質なベーシックカジュアルを市場最低価格で継続的に提供する、その「社外規範」を実現する仕組みをつくるために社員は働くのだ。

企業の考えを明確化し、表明し、理解させるのは重要である。

とくに「社外規範」は企業の成長や進化と密接に関わる。

「自分たちは何をやるべきか」

これを「ミッション」「ビジョン」「理念」「社是」と呼んでも構わない。

大事なのは、それを明確に言葉にすることである。

会社全体で、共有すること。

そして、それを真剣に実現しようとすることだ。

「外に向けた)社外規範」に対して、「(中に向けた)社内で大事にしている行動や考え方」が「社内規範」だ。

「社内規範」は、理想とされる行動や考え方、つまり行動指針である。社風や求められる働き方は、同じ業界でも異なる。

組織には独自の価値観、判断基準、行動基準があるように、「社内規範」は会社によって異なる。

だからこそ、自分が所属する組織の行動指針を好きになれなければ、毎日職場に行くことがつらいはずだ。

企業の「経営理念」には、「社外規範」か「社内規範」のどちらかだけのケースも多い。

「やってみなはれ」(サントリー)、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」(リクルート)などは、「社内規範」の例である。

「情報革命で人々を幸せに」(ソフトバンク)、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」(ファーストリテイリング)などは、「社外規範」の例だ。

「企業理念」という最上位の概念に「社外規範」「社内規範」のどちらかだけが表記されていても構わない。

だが、その下位概念である「社訓」や「バリュー」「クレド」など、さまざまな価値観を伝える言葉の中に「社内規範」と「社外規範」の両方がふくまれていること。

「社内規範」と「社外規範」は、きちんと共有できるように両方が明確にされていることが大事なのだ。

そして、会社には、その価値や、設定した理由や背景を社員に理解してもらうために努力し続けることが求められる。

P・F・ドラッカー氏の「経営者に贈る5つの質問」は、「社外規範」を進化させるために、とても役に立つ。

・質問1「われわれのミッションは何か?」

・質問2「われわれの顧客は誰か?」

・質問3「顧客にとっての価値は何か?」

・質問4「われわれにとっての成果は何か?」

・質問5「われわれの計画は何か?」

この5つの質問は、経営を考えるうえでの至極の問いである。

「人材開発」と「組織開発」は違う。

その視点の違いは、野球にたとえるとわかりやすいかもしれない。

1人の選手が打ったり、投げたり、守ったりする行動がより良くなっていくことで、良い成績をあげられるようになる。

その選手が活躍し貢献することでチームが強くなる。

そうやって人を育てていこうとするのが「人材開発」の視点である。

会社でいえば、マネジャーになったからには、マネジャーとしてふさわしい人に育てようとするのが「人材開発」だ。

選手1人ひとりの能力は高く、良い成績を残しているのに試合には勝てないチームがあったとする。

その原因を探ると「セカンドとショートの守備の息が合っていない」ということがわかった。

選手1人ひとりは良いのだけれど、全体を最大に活かし切れていないのだ。

そのために、選手間の連携を高めたり、最適な守備位置にコンバートしたりするのが「組織開発」の視点である。

実際のビジネスだと、会社全体をより強くするための「仕組み・制度・施策」を考えるのが「組織開発」だ。

「人材開発」という観点はもちろん大切だが、そこに「組織開発」の視点も取り入れて考えると、組織戦略面での課題解決がさらに効果的になる。

たとえば、「組織の壁を壊す」というのは、多くの会社で求められ、実際にそうしようと取り組んでいるところも多い。

これこそ、「組織開発」の発想だ。

個人への教育だけでは、なかなか解決しない問題だからである。

「組織開発」は、企業のあるべき姿に近づくための「仕組み・制度・施策」を、全社的、組織的視点で継続して行うという発想である。

社員のモチベーションを上げることにブレーキをかけているものや、業績を伸ばすための阻害要因となっているものを取り除き、個人の満足度ややりがいを高めて、業績が上がる「強い会社」にするためのものだ。

まず、最初に確認したいのは、企業の戦略に合わせて、商品やサービスは生み出され提供されている。

その商品やサービスは、組織によって生み出されている。

そして、その組織を支える構成員は、1人ひとりの人間だということだ。

「経営戦略・事業戦略」と「組織戦略・人事戦略」は相互に関係し合う。

「組織戦略・人事戦略」とは、人的資源を戦略的にマネジメントしてゆくことである。

「経営や事業の戦略」と「人と組織のこと」は、一体として考えなければならないのだ。

会社を強くする「仕組み・制度・施策」を考え、実行するうえでもっとも大切なのは、「人の気持ちを考え抜く」ことである。

組織変革には、成功するまでの道筋をイメージできる力が求められる。

会社の何を、どの手順で変えてゆくのか、綿密なシナリオを描く必要があるからだ。

だが、会社は簡単には変わらない。

だからこそ、腹をくくって、シナリオを描き、実行し、またシナリオを描き直して実行するということを繰り返して、はじめて会社に変化が現れ出す。

「企業文化」を変えるとは、それぐらい大がかりで根気のいることなのだ。

いわば、組織変革には「シナリオ力」をもとにした「仕組み・制度・施策」と「気概」のようなものの両方が必要となるということであろう。

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